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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)3043号 判決 1992年10月19日

原告

谷元勝美

被告

元谷貞子

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告に対し、金六六二八万五三七円及びこれに対する昭和五八年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告らの負担とし、その余を原告の負担とし、参加によつて生じた費用は全部補助参加人の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求

被告らは各自、原告に対し、金七二四一万九二九三円及びこれに対する昭和五八年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和五八年一二月一〇日午後六時三〇分ころ

(二) 場所 大阪市港区波除町二丁目五番九号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三)(1)加害者一 被告元谷貞子(以下「被告元谷」という。)が運転していた普通乗用自動車(大阪五九み二七二六号、以下「元谷車」という。)

(2)加害者二 被告中村勇(以下「被告中村」という。)が運転していた普通乗用自動車(神戸五八つ二〇九六号、以下「中村車」という。)

(四) 被害者 原告

(五) 事故態様 信号待ちのため、原告が、本件交差点北東角の歩道上で足踏式自転車に跨がり立ち止まっていたところ、同交差点に東に向かい直進してきた中村車と、同交差点に東から進入し北に右折した元谷車が衝突し、その反動で元谷車が暴走し、原告に衝突した。

2  責任原因

(一) 本件事故は、被告元谷及び被告中村の前方不注視等が原因となつたものであるから、同被告らは、民法七〇九条に基づき、原告の損害を賠償する責任がある。

(二) 被告長井功(以下「被告長井」という。)は、元谷車を保有して自己のため運行の用に供するものとして、自動車損害賠償保障法(以下「自倍法」という。)三条に基づき、原告の損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷、治療経過及び後遺障害

(一) 受傷

本件事故により、原告は、右第三腰椎横突起骨折、右膝挫傷、根性腰椎症、右上腕神経麻痺等の傷害を負つた。

(二) 治療経過

原告は、次のとおり入通院した。

(1) 多根病院 昭和五八年一二月一〇日から昭和五九年二月一日まで入院

同月二日から同年九月二〇日まで通院

同月二一日から昭和六〇年五月一六日まで入院

同月一七日から同年一〇月二〇日まで通院

(2) 白浜病院 同月二一日から同年一二月一日まで入院

(3) 多根病院 同月二日通院

同月三日から昭和六一年五月二九日まで入院

同月三〇日から同年一二月二九日まで通院

(三) 後遺障害の程度

原告は、次のとおりの後遺障害を残し、昭和六一年一二月二九日に症状固定に至つた。

(1) 脊柱の障害

胸腰椎部の前屈が二五度、後屈が〇度であり、また、常時コルセツトの装着が必要であるため、著しい運動障害が残存する。これは、自賠法施行令別表第六級五号に該当する。

(2) 上下肢の障害

上肢には、同別表第一〇級一〇号に該当する右肩関節の機能障害が、下肢には、同別表第一二級七号に該当する足関節の機能障害が残存する。

(3) 精神・神経の障害

右上肢の挙上、手指巧緻運動障害及び知覚運動障害、両下肢の知覚・運動低下及び筋力低下並びに安静時腰痛等の障害により、神経系統の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外に服することができない状態にあり、同別表第五級二号に該当する。

よつて、原告の後遺障害の程度は、同別表第五級の程度を下回ることはない。

4  原告の損害

本件事故により、原告の被つた損害は次の額を下回ることはない。

(一) 治療費 一〇五五万二九五〇円

(二) 治療関係費

(1) 付添看護費 二二万九五〇〇円

第一回目の多根病院入院中の五一日間、一日当たり四五〇〇円が必要であつた。

(2) 入院雑費 六八万九〇〇〇円

(3) 通院交通費 三三万八五五〇円

(4) 装具代 一三万五九〇〇円

(三) 休業損害 一二〇三万一二〇〇円

(四) 後遺障害による逸失利益 八五二八万七一七四円

原告は、昭和二二年九月二一日生で、本件事故当時、左官として就労していたところ、本件事故による後遺障害のため、残る就労可能期間二八年間にわたつてその労働能力の七九パーセントを失い、平成二年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者四〇ないし四四歳の平均年収は六二六万九〇〇〇円であるから、原告の逸失利益をホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息控除をして算出すると、右のとおりとなる。

(五) 慰謝料

(1) 入通院慰謝料 三〇〇万円

(2) 後遺障害慰謝料 一二五〇万円

(六) 弁護士費用 六〇〇万円

5  まとめ

よつて、原告は、被告ら各自に対して、自動車損害賠償責任保険より支払を受けた一五〇万円及び元谷車付保の保険会社より支払を受けた一二九〇万七九五〇円を控除した右損害残金合計のうち金七二四一万九二九三円及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告元谷及び被告長井の関係

(一) 請求原因1及び同2の事実は認める。

(二)(1) 同3(一)のうち、原告が本件事故により右第三腰椎横突起骨折及び右膝挫傷を負つた事実は認めるが、その余は知らない。

(2) 同3(二)の事実は認める(ただし、原告は、昭和五八年一二月一二日に入院したのであり、昭和五九年七月一六日から同年八月五日まで入院しており、また、昭和六一年五月二八日には退院して、同月二九日から通院しているので、これに反する事実は除く。)。

(3) 同3(三)の事実は否認し、主張は争う。

以前から、第四及び第五腰椎椎間関節の過剰形成があり、神経症状を発症させやすい体質的素因があつたから、三割程度の寄与度減額がなされるべきである。

(二) 被告中村の関係

仮に、本件事故と原告の症状との間に因果関係があるとしても、原告の症状には、腰部の加齢的変化、職業による私病あるいは昭和五九年一〇月八日の後方固定術実施の際の医療過誤等の原因が大きく影響を与えているから、被告らの損害賠償義務はその寄与の限度に限られるべきである。

2  損益相殺

(一) 元谷車付保の任意保険会社から、原告に対し、入院雑費、通院交通費、装具代、休業補償及び慰謝料として合計一二九〇万七九五〇円が、原告の治療費として、多根病院に対し五五二万三一八九円、白浜病院に対し四五万六〇八〇円がそれぞれ支払われ、また、大阪市の健康保険求償請求に対し四五七万三六八一円が支払われた。

(二) 原告に対し、自動車損害賠償責任保険より、一五〇万円が支払われた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の各主張は争う。

仮に、本件事故以前から、原告の第四及び第五腰椎椎間関節に過剰形成があつたとしても、これが本件事故による原告の症状に何らかの影響を与えたものとはいえない。

2  同2の事実のうち、(一)のうちの原告が合計一二九〇万七九五〇円の支払を受けたこと及び(二)は認めるが、その余は知らない。

理由

一  事故の発生

請求原因1(事故の発生)の事実については、原告と被告元谷及び同長井との関係では争いがなく、被告中村との関係では、そのうちの(一)ないし(四)の事実及び(五)のうちの同交差点に東に向かい直進してきた中村車と同交差点に東から進入し北に右折した元谷車が衝突し、元谷車が原告に衝突した事実は争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、その余の争いのある事実についても認めることができる。

二  被告らの責任

請求原因2(責任原因)の事実については、原告と被告元谷及び同長井との関係では争いがなく、また、以上の事実によれば、これを認めることができる。

これらによれば、被告元谷及び被告中村に過失のあることは明らかであるから、同被告らは民法七〇九条に基づき、また、被告長井は元谷車の運行供用者として自倍法三条に基づき、それぞれ本件事故による損害の賠償責任を負う。

三  原告の受傷及び治療経過

原告と被告元谷及び同長井との関係では、請求原因3(一)のうちの原告が本件事故により右第三腰椎横突起骨折及び右膝挫傷を負った事実及び同3(二)の事実(ただし、昭和五八年一二月一〇日から入院したとの点、昭和五九年七月一六日から同年八月五日まで通院していたとの点、昭和六一年五月二九日まで入院していたとの点は除く。)については争いがなく、以上の事実に加え、甲第二ないし第一九及び第二一号証(以下、枝番を省略する場合は、すべての枝番を含む。)、乙第一ないし第四五号証、丁第一一及び第一四号証並びに証人新田貢の証言によれば、次のとおりの事実が認められる。

1  原告は、昭和五八年一二月一〇日の本件事故後、多根病院外科で受診し、右第三腰椎横突起骨折及び右膝打撲症の診断を受けたが、当日は、入院することなく自宅に帰つた。なお、同日、原告は同病院整形外科の診察も受けた。

その後、腰部の痛みが強くなり、歩行困難の症状が発現あるいは強化したため、同月一二日に、同病院外科に入院した。

同病院外科では、湿布、注射及び内服薬の投与等の治療を行い、経過は順調で腰痛等は軽減し、昭和五九年二月一日に、同病院を退院した。

2  原告は、多根病院退院後、同病院外科に昭和五九年二月二日から通院した。

腰部痛が続き、同月中には計二三日、同年三月中には計二六日、同年四月中には計二四日、同年五月中は計二三日、同年六月中は計二五日、同年七月中には一五日までの間に計一二日の通院をし、理学療法を受け、また、時々、腰部神経ブロツクを施された。

3  原告は、昭和五九年七月一六日、腰部痛が強く、歩行困難があるために、多根病院外科に再入院した。入院中、安静を保ち、理学療法を施され、経過良好で、同年八月五日に退院した。

その後は、同科に同年九月一一日まで通院し(実日数三〇日)、理学療法を受けた。

4  原告は、昭和五九年九月一一日に、多根病院外科から、同病院整形外科に転科し、同月二〇日まで通院した(実日数八日)。

同月二一日からは、右膝挫傷、第五腰椎第一仙椎間椎間板ヘルニア等の診断で、同科に入院し、昭和六〇年五月一六日まで入院治療を受けた。

原告は、昭和五九年一〇月八日、同ヘルニアのために、腸骨から骨採取した上での第五腰椎第一仙椎後方椎間固定術を受けた。

その後、原告には、同年一〇月末ころから、右腕神経麻痺の症状が発現し、手指運動がほとんど不能な状態になつた。同症状について、原告の担当医は、同固定術中において神経が圧迫されたことが原因であるとの意見であつた(乙第二号証の二第三丁)。

また、練理学療法等の保存的療法での治療を受けたが、腰痛は改善せず、第五腰椎第一仙椎神経根症状が認められた。

同科退院後、原告は、昭和六〇年五月一七日から同科に通院し、同月中計一三日、同年六月中計二五日、同年七月中計二六日、同年八月中計二七日、同年九月中計二三日、同年一〇月中計一六日の通院治療を受けた。

5  原告は、多根病院整形外科で、紹介され、後方椎間固定術の再手術前に腰痛の症状緩和等を図るため(乙第二号証の二第三丁、第一六丁)、昭和六〇年一〇月二一日、国立白浜温泉病院を受診し、同日同病院に入院した。

同病院では、右上肢不全麻痺及び根性腰痛症術後の診断名で、リハビリテーシヨン及び温泉治療を受けたが、右臀部から下肢にかけての痛みは変わらず、同年一二月一日に同病院を退院した。

6  原告は、昭和六〇年一二月三日に、多根病院整形外科に再入院し、同月一八日に第四ないし第六腰椎(第一仙椎)後側方固定術を受けた。

そして、その後、昭和六一年五月二八日に同科を退院し、同月二九日から、同科に通院を開始し、同月中に計三日、同年六月中計二三日、同年七月中計二四日、同年八月中計二四日、同年九月中計二一日、同年一〇月中計二三日、同年一一月中計二三日、同年一二月中計二二日の通院をして、リハビリテーシヨン等を受け、同月二九日、同科医師により、症状固定の診断を受けた。

同症状固定診断時、同医師は、右第三腰椎横突起骨折、右膝挫傷、根性腰痛症、右上腕神経麻痺の傷病名の下、自覚症状として、腰痛、歩行障害、両下肢知覚障害、右上腕神経麻痺による運動・知覚障害、巧緻運動障害があり、他覚症状として、右腋窩神経麻痺による右上肢の挙上・手指巧緻運動障害及び知覚・運動障害、安静時の腰痛、両下肢の知覚・運動低下(常時フレームコルセツトの装着が必要で、ステツキを使つての歩行ができる程度)、両下肢の筋力低下があり、また、第五腰椎第一仙椎後方椎間固定及び第四腰椎から第一仙椎にかけての後側方椎間固定による、胸腰椎部の運動障害(前屈二五度、後屈〇度)及び荷重機能障害(常時フレームコルセツト装着の必要性あり)並びに右肩関節の関節機能障害(他動による屈曲運動六七度〔左は一五〇度〕、伸展運動三七度〔左は五五度〕、外転運動八四度〔左は一六五度〕)があるという診断であつた。なお、同医師は、原告には本件事故以前の既存障害はないという診断をしていた。

四  原告の相当治療期間及び後遺障害等について

1  以上認定の事実によれば、原告は、本件事故により、右第三腰椎横突起骨折及び右膝挫傷の傷害の他、腰椎椎間板ヘルニアの傷害をも受け、同ヘルニアの手術のために右上腕神経麻痺の症状が発現するに至つたものと認められ、これらのため、入通院治療を受けたものの、昭和六一年一二月二九日、右三6記載の後遺障害を残して、症状固定に至つたものと認められる。

2  そして、これに加え、原告の年齢、職業その他本件弁論に現れた諸事情を考慮すると、原告は、本件事故による右後遺障害により、その労働能力を七九パーセント喪失したものとするのが相当である。

3(一)  なお、被告らは、各症状が、<1>本件事故発生から長時間経つてから発症したものである、<2>本件事故とは異なる転倒事故に起因したものである、<3>原告の私病によるものである、あるいは<4>本件事故とは関係のない医療過誤によるものである等と主張して、本件事故との因果関係を争つているので、この点につき若干付言する。

(二)  まず、<1>については、確かに、原告が椎間板ヘルニアであるとの確定的な診断を得たのは、多根病院整形外科に転科した昭和五九年九月一〇日過ぎであるものと認められるものの、その具体的な症状である腰痛及び歩行困難は、本件事故直後から発現していたことは前記認定のとおりであり(原告は、昭和五八年一二月一〇日の初診の時から歩けなかつた旨述べる。この供述は、同日には原告が入院せずに帰宅していることからして、直ちには信用できないが、その二日後には腰痛及び歩行困難を理由に入院していることは明らかである。そして、これよりすれば、乙第二号証の二にある昭和五九年三月末ころから腰痛が発現した旨の記載部分は信用することができない。)、前記認定によれば、その後、治療の経過でその程度に変化があつたものの、腰痛及び歩行困難は継続して、同科に転科するまで存していたものと推認されるから、椎間板ヘルニアは、長時間経つて発症したものというよりも、むしろ、本件事故直後に発症していたものというべきである(なお、昭和五九年一月に、同科医師から外科に対して、確定的なものか否かは別にして腰部挫傷後デイスクヘルニアとの診断結果が示されていた〔丁第一四号証〕が、これについて外科の診断書等に表されていない点は、原告は当初、椎間板ヘルニア等を専門分野としない外科の治療を受けており、他に腰痛等の症状の原因となり得る第三腰椎横突起骨折等の傷害があつたことを考えれば、必ずしも不自然なものともいえないというべきである。)。

(三)  また、<2>についても、乙第一号証の二によれば、原告は、昭和五九年九月一〇日に転倒したことが認められるが、さらに同証拠によれば、これによる症状としては右肩部痛が挙げられているのみであり、他に右転倒の具体的内容を認めるに足りる証拠はないから、右転倒により原告の椎間板ヘルニアの症状が発現したものとは認められない。

(四)  さらに、<3>については、椎間板ヘルニアが原告の私病であるものと認めるに足りる証拠はなく(乙第一号証の三には、先天的過形成性との言葉が記載されており、また、原告本人尋問の結果から、原告は左官職を一五歳のころからしていたことが認められるが、これらから直ちに、原告に椎間板ヘルニアが本件事故前からあつたものと認めることはできない。)、前記認定の経過からすれば、椎間板ヘルニアは本件事故によるものであるというべきである。

(五)  そして、<4>については、前記認定よりすれば、原告の右上腕神経麻痺の症状は、腰椎後方固定術中に神経が圧迫されたことが原因であるものと認められるが、同手術は、本件事故による椎間板ヘルニアの治療として行われたものであり、これによる右症状の発現が、同手術を行つた医師の過誤によるものと認めるに足りる証拠はない以上、本件事故との相当因果関係を否定することはできないものというべきである。

五  原告の損害

1  治療費 一〇五五万二九五〇円

以上認定の事実に加え、乙第四七号証によれば、本件事故による原告の入通院治療のため、合計一〇五五万二九五〇円を必要としたことが認められる。

2  付添看護費 一七万八五〇〇円

甲第二号証によれば、原告は、昭和五八年一二月一二日からの五一日間の多根病院入院中、安静を要するために付添看護を必要としたことが認められ、以上によれば、このために一日当たり三五〇〇円程度を必要としたものとするのが相当である。

3  入院雑費 四七万七〇〇〇円

以上認定の事実によれば、原告は、合計五三〇日間の入院期間に、一日当たり、九〇〇円程度の雑費を必要としたものと認められる。

4  通院交通費 三三万八五五〇円

乙第四七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記の通院に当たり、右の金額の交通費を必要としたものと認めることができる。

5  装具代 一三万五九〇〇円

以上認定の事実に加え、乙第四七号証によれば、原告は、杖及びコルセツト等の装具を必要とし、そのために右の金額を必要としたものと認められる。

6  休業損害 一一八六万六三八九円

甲第二〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、須川左官店に左官として勤務し、昭和五八年九月から同年一一月までの三か月間に、合計九七万二〇〇〇円の収入を得ていたことが認められ、これによれば、本件事故当時、原告は三八八万八〇〇〇円程度の年収を得ていたものと推認されるところ、本件事故による傷害のため、症状固定に至るまでの一一一四日間休業せざるを得なかつたから、本件事故による休業損害は、次のとおり一一八六万六三八九円となる。

(算式)3,888,000÷365×1114=11,866,389(小数点以下切り捨て、以下同じ。)

7  後遺障害による逸失利益 四八一九万二一四八円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和二二年九月二一日生の健康な男子であつたものと認められるが、前記のとおり、本件事故により、その労働能力の七九パーセントを失う程度の後遺障害を残し、昭和六一年一二月二九日に症状固定に至つたものであり、また、本件事故当時、三八八万八〇〇〇円程度の年収を得ていた。

そして、これらによると、本件事故に遭わなければ、原告は、症状固定後、さらに六七歳までの二八年間にわたり就労可能であり、その間に平均して、少なくとも、一年当たり三八八万八〇〇〇円程度の収入を得ることができたものと推認されるところ、本件事故による後遺障害に基づく労働能力の喪失のため、そのうちの七九パーセントを得ることができなくなつたものと考えられるから、原告の本件事故による後遺障害による逸失利益の本件事故当時の現価を、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息の控除をして算出すると、次のとおり四八一九万二一四八円となる。

(算式)3,888,000×0.79×(18.421-2.731)=48,192,148

8  慰謝料 合計一三五〇万円

前記認定の原告の受傷部位及び程度、治療経過、後遺障害の内容及び程度、年齢その他弁論に現れた諸事情を総合考慮すれば、原告の本件事故による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、入通院分二五〇万円、後遺障害分一一〇〇万円とするのが相当である。

六  寄与度減額について

前記のとおり、乙第一号証の三には、先天的過形成性との言葉が記載されているが、これが原告の椎間板ヘルニア発症にいかなる影響を与えていたものかについては、証拠がないので明らかとはならず、また、原告に腰部の加齢的変化の存在についても、証拠がない(むしろ、証人新田貢の証言一九丁からすれば、特に腰椎の変化はなかつたものとも考えられる。)。

そして、他に、損害の公平な分担の見地から、被告らが賠償すべき損害額を減ずるべき事情を認めることはできないから、被告ら各自の寄与度減額の主張はいずれも理由がない。

七  損益相殺

原告が、元谷車付保の保険会社から一二九〇万七九五〇円の、自動車損害賠償責任保険から一五〇万円の各支払を受けた事実は当事者間に争いがなく、乙第四六及び第四七号証並びに弁論の全趣旨によれば、元谷車付保の保険会社である安田火災海上保険株式会社から、原告の本件事故による受傷の治療費に対する健康保険給付をした大阪市の国民健康保険法六四条に基づく求償請求に対して、四五七万三六八一円が支払われたこと、また、多根病院及び白浜温泉病院に対し、原告の治療費として、合計五九七万九二六九円が支払われたことが認められる。

よつて、以上認定の原告の損害額合計八五二四万一四三七円から、右支払額合計二四九六万九〇〇円を損益相殺として控除すると、残損害額は、六〇二八万五三七円となる。

八  弁護士費用

原告が、本件訴訟の提起及び追行を原告代理人に委任したことは、本件訴訟上明らかであり、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、六〇〇万円とするのが相当である。

九  結論

以上の次第で、原告の被告各自に対する請求は、金六六二八万五三七円及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらをいずれも認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民 大沼洋一 小海隆則)

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